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その床を濡らすものは

 前髪のかかる額、ぐっと反らしたあご、咽仏の隆起がうつくし頸元くびもと、お風呂に入るときいつもお湯が溜まる鎖骨、陰になっている胸の谷間、その下のみぞおち、おへそ、下着から微かにのぞく腰骨、肉感のある太もも、足首に向かって急になっていくふくらはぎの斜面……。

 それらを順に伝った汗を、おれは舌で丁寧に舐めとる。

 そして、恥じるように身をよじる彼女に一言。

「だって、放っておいたら床が濡れてしまう」

 実際、床を濡らしそうなのは、汗ではないのだけれど。


 

朝露のイヤリング

 耳元に朝露をあしらって、今日はどこへ出かけよう。

 そうだ。もうすぐ夏祭りだから、このイヤリングに合う浴衣でも探しに行こう。

 揺れるものを目で追うという習性を利用して、彼の視線をひとり占めにしちゃえ。


 

魅惑のノート

 まっさらな白を汚すことが怖くて、一言も書き込めないままになっているノートの数々は、今も本棚の片隅を埋めている。

 それなのにまた、わたしのこころをとらえて離さない一冊と出会ってしまった。


 

紫陽花が色づくころに

「紫陽花が色づくころに逢いに行きます」

 その守られるかどうかもわからない約束のために今日、わたしは傘など新調してみました。

 せめて紫陽花の枯れゆく姿くらいは、あなたと一緒に眺められたら……。