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夏嫌いにハッカ風呂

空を手なずける(季節用品)

 クーラーが壊れた彼女の部屋で、暑い暑いと文句を言いながら扇風機を独占していると、「お風呂に入ろうか」と彼女が立ち上がった。

 水風呂でもするつもりふだろうかと思ったら、ふつうにお湯を沸かし始める彼女。どういうつもりなんだと訝しみながらも、誘われるままに湯に足を入れると、熱さのあとにスーッとした心地よさが広がった。

「何だこれ」

 予想外の感覚に戸惑いながら、先に入っていた彼女を後ろから抱きしめるように全身を湯船の中に収める。

 すると、彼女は悪戯っぽく笑いながら、

「ハッカ油を数滴垂らしてみたの」

と。

 なるほど、このスースー感はメントールの仕業だったのか。


 

 

 このハッカ風呂、入浴中も気持ちよさもさることながら、浴室から出て扇風機の風にさらされた瞬間の爽快感が半端なかった。

 その帰り、ドラッグストアに寄って、さっそくハッカ油を購入した。大嫌いな夏がちょっとだけ好きになりそうだ。

蛇の抜け殻になったミミズ

食をあそぶ(キッチン)

 灼熱にあぶられたアスファルトの上を、ミミズがいまにも果てそうになりながら這っていました。

 さっき敵に穿たれた腹の傷は、つゆ草できつく縛り上げていましたが、それでも体内から流れ出た水がミミズの後ろに小さな川を作っていました。

「あんた、そんなにひどい顔をしてどうしたんだい。ちょっとこっちで水でも飲んでおいきよ」

 自宅の玄関ステップに腰かけてミミズが通り過ぎるのを眺めていた老婆は、ふと思い立ってそう呼び止めました。朦朧とした意識の中で声の方を振り向いたミミズは、老婆の腰元に、並々と水を注がれたグラスの載った黒いマットが置かれているのを見つけました。

「ああ、神のお恵みだ」

 ミミズは最後の力をふり絞って、マットの上まで這っていきました。そして、氷がたっぷり入ったグラスの水滴に口をつけようとしたそのとき、ミミズがまるで全身を絞られるような痛みを感じました。

 グラスからちびりちびりと冷水を飲みながら、その様子を眺めていた老婆は「はっ」としました。マットの上に乗った途端、ミミズの体から水分が抜けて、まるで蛇の抜け殻のようになってしまったからです。

 それもそのはず、その黒いマットは、抜群の吸水性を誇る水きりマットだったのですから。

 そして、こちらが件の超吸水マットです。

 

水きりディッシュマット
価格:1296円(税込、送料別)

眠りの定義

睡眠をデザインする(寝具・快眠グッズ)

「睡眠って、要は脳の温度を下げて活動を低下させることらしいよ」

「だから、頭を冷やす塩まくらが快眠にいいのね」

「そういうこと。ちなみに、後頭部を冷やしながら眠ると、ネガティブな思考もストップするんだって」

「それはいいわね。最近、悪いことばかり頭に浮かんできちゃって」

「どんな?」

「あなたがこのまま社会復帰できなかったらって……。今日も朝から寝てばかりいたでしょう」

「それはこの快眠まくらのせいだよ」


 

その床を濡らすものは

食をあそぶ(キッチン)

 前髪のかかる額、ぐっと反らしたあご、咽仏の隆起がうつくし頸元くびもと、お風呂に入るときいつもお湯が溜まる鎖骨、陰になっている胸の谷間、その下のみぞおち、おへそ、下着から微かにのぞく腰骨、肉感のある太もも、足首に向かって急になっていくふくらはぎの斜面……。

 それらを順に伝った汗を、おれは舌で丁寧に舐めとる。

 そして、恥じるように身をよじる彼女に一言。

「だって、放っておいたら床が濡れてしまう」

 実際、床を濡らしそうなのは、汗ではないのだけれど。


 

朝露のイヤリング

装身具(アクセサリー)

 耳元に朝露をあしらって、今日はどこへ出かけよう。

 そうだ。もうすぐ夏祭りだから、このイヤリングに合う浴衣でも探しに行こう。

 揺れるものを目で追うという習性を利用して、彼の視線をひとり占めにしちゃえ。


 

魅惑のノート

言葉を綴る(文具)

 まっさらな白を汚すことが怖くて、一言も書き込めないままになっているノートの数々は、今も本棚の片隅を埋めている。

 それなのにまた、わたしのこころをとらえて離さない一冊と出会ってしまった。