生着替えは夢幻と消え

 部屋に遊びに来ていた彼女が、「さっき買った服、着てみてもいい?」と言い出した。

 俺の部屋はワンルームだから、隠れて着替える場所なんてない。

 ……これはもしかして、いや、もしかしなくても、生着替えを拝めるチャンスだ。

「うん、着て見せてよ。絶対似合うと思う!」

 あくまで服が見たいという体で、彼女をその気にさせる。

「そう? じゃあ……」

 と、彼女はバッグの中から何かを取り出した。

 そして次の瞬間、部屋の中央に人間ひとりが収まるくらいの、ミニテントが出現していた。

「覗いちゃダメだよ」

 と、笑顔でテントに入っていく彼女。間抜けな俺は、呆然とそれを見守ることしかできなかった。

直線は嘘偽りが苦手

どこまでも直線的で、隠しごとや嘘が苦手そうなところに惹かれました。

正反対の色を同時に包含しながら、必要とあらばいつでもそれらを切り離す覚悟ができている、その器の大きさと抜け目のなさにも憧れます。


 

これひとつだけ持ってどこまでも旅しよう

思い立った瞬間にふと出かけられる、身軽な人に憧れて、ATAOのウォレットバッグを買ってみました。

 

いつか読んだ綿矢りさの小説の中にこんな一文があったけど……

 

余るくらい持っていたほうが安心なのに、いつもちょうど必要なだけ持って出ていく人のほうが、自信ありげでたくましそうに見えるのはなぜだろう。

(引用元:綿矢りさ『かわいそうだね?』)

 

この財布を使い始めてから、私もなんだか自信がついてきた気がします。

 

さあ、これひとつだけ持って、今日はどこまで出かけよう? 

 

夏嫌いにハッカ風呂

 クーラーが壊れた彼女の部屋で、暑い暑いと文句を言いながら扇風機を独占していると、「お風呂に入ろうか」と彼女が立ち上がった。

 水風呂でもするつもりふだろうかと思ったら、ふつうにお湯を沸かし始める彼女。どういうつもりなんだと訝しみながらも、誘われるままに湯に足を入れると、熱さのあとにスーッとした心地よさが広がった。

「何だこれ」

 予想外の感覚に戸惑いながら、先に入っていた彼女を後ろから抱きしめるように全身を湯船の中に収める。

 すると、彼女は悪戯っぽく笑いながら、

「ハッカ油を数滴垂らしてみたの」

と。

 なるほど、このスースー感はメントールの仕業だったのか。


 

 

 このハッカ風呂、入浴中も気持ちよさもさることながら、浴室から出て扇風機の風にさらされた瞬間の爽快感が半端なかった。

 その帰り、ドラッグストアに寄って、さっそくハッカ油を購入した。大嫌いな夏がちょっとだけ好きになりそうだ。

蛇の抜け殻になったミミズ

 灼熱にあぶられたアスファルトの上を、ミミズがいまにも果てそうになりながら這っていました。

 さっき敵に穿たれた腹の傷は、つゆ草できつく縛り上げていましたが、それでも体内から流れ出た水がミミズの後ろに小さな川を作っていました。

「あんた、そんなにひどい顔をしてどうしたんだい。ちょっとこっちで水でも飲んでおいきよ」

 自宅の玄関ステップに腰かけてミミズが通り過ぎるのを眺めていた老婆は、ふと思い立ってそう呼び止めました。朦朧とした意識の中で声の方を振り向いたミミズは、老婆の腰元に、並々と水を注がれたグラスの載った黒いマットが置かれているのを見つけました。

「ああ、神のお恵みだ」

 ミミズは最後の力をふり絞って、マットの上まで這っていきました。

 そして、氷がたっぷり入ったグラスの水滴に口をつけようとしたそのとき――

 ミミズは突然、全身を絞られるような痛みを感じました。

 グラスからちびりちびりと冷水を飲みながら、その様子を眺めていた老婆は「はっ」としました。マットの上に乗った途端、ミミズの体から水分が抜けて、まるで蛇の抜け殻のようになってしまったからです。

 それもそのはず、その黒いマットは、抜群の吸水性を誇る水きりマットだったのですから。

 

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 こちらが件の超吸水マットです。

 

 

水きりディッシュマット
価格:1296円(税込、送料別)

眠りの定義

「睡眠って、要は脳の温度を下げて活動を低下させることらしいよ」

「だから、頭を冷やす塩まくらが快眠にいいのね」

「そういうこと。ちなみに、後頭部を冷やしながら眠ると、ネガティブな思考もストップするんだって」

「それはいいわね。最近、悪いことばかり頭に浮かんできちゃって」

「どんな?」

「あなたがこのまま社会復帰できなかったらって……。今日も朝から寝てばかりいたでしょう」

「それはこの快眠まくらのせいだよ」